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無明長夜の灯炬

 親鸞聖人の著されたご和讃は毎日お晨朝で繰り読みさせていただいておりますので、馴染み深いものにさせていただいております。
 「三帖和讃」というご和讃は『浄土和讃』『高僧和讃』『正像末和讃』を云います。
 この中の『正像末和讃』は聖人の晩年の著作です。奥書には正嘉二年九月二十四日と記されておりますから聖人86歳のものです。
 さて、この年の前年の8月に関東地方は大きな地震に見舞われています。関東に在住の門弟にも少なからず被害があったとおもわれます。さらに、台風被害や凶作で飢餓状態が続き疫病の流行が続いたという「正嘉の飢饉」で多くの人々が生命を落とされた年でもありました。
 京都におられた親鸞聖人もその惨状に心を痛めておられたことでしょう。
 『浄土和讃』『高僧和讃』を著されてから10年近く経ての晩年に『正像末和讃』を残されたのは、背景にこのような社会の惨状があったからなのかもしれません。

 無明長夜の灯炬なり
 智眼くらしとかなしむな
 生死大海の船筏なり
 罪障おもしとなげかざれ
  『正像末和讃』(36)
(阿弥陀如来の本願は、煩悩によって迷う衆生を照らす灯火であるから、智慧の眼が暗いと悲しむことはない。阿弥陀如来の本願は、生死の大海での救いの船であり筏であるから、証りへの障りとなる悪業が深いと嘆くことはない)

 このご和讃は娑婆世界を無明の闇のなかで苦しみながら生きる人々に励ましのエールを送られているように響きます。
 何ひとつ確かなものがない日暮らしのなかで弥陀の本願に導かれて往くべき浄土の確かさと有難さを承るのは、今を生きる私たちの大切な導きとして頂戴したいと思います。

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