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響流十方(こうるじっぽう)

 太平洋戦争の開戦から今年で80年になります。戦争の悲惨さを体験した人も年々少なくなっていますので話しを伺うことも難しくなってきました。
 さて、極東の小さな島国が米英国と戦争することは「敗戦」という結末を迎えることを当時の多くの政府関係者は予想していたともいわれています。そのような中で資源の乏しいこの国が国民に「金属を供出せよ」と迫りました。そのことは、お寺に対しても例外ではありませんでした。郷里の広島教念寺の梵鐘(釣鐘)も供出を余儀なくされ、戦後も返還されることはありませんでした。当時、本願寺派寺院の約九割が梵鐘を供出し、五パーセントほどしか返還されていないことが最近の調査で判明しました。
 さて、これらの金属は何になったのでしょう。それは敵国を攻撃するための兵器や砲弾に姿を変えていったのです。お寺の梵鐘は時を告げることやこれから行事を行うために遠くまでその音をもって知らせるのが役目です。それが、人の生命を脅かす兵器になったかと思うと悲しく辛い気持ちばかりです。
 真宗寺院の梵鐘には多く「響流十方」の浮き出し文字が配されています。
 讃仏偈には「如来容顔 超世無倫 正覚大音 響流十方」と示されています。「正覚の大音は、十方に響流す」とあり、 「正覚の大音」とは、「真実の声」ということです。 「十方」とは、東、西、南、北、東南、東北、西南、西北、上、下をいい、すべての世界を意味し、 「響流」とは響きを流布することです。
 阿弥陀さまの願いがすべての人を救おうとお念仏となって何ものも隔てることなく響いてゆく姿そのものです。
 お寺の鐘の音のなかに悲しい歴史があることを忘れてはいけません。

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