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文字によらず

 わが国は高い教育水準を保っていると思いますが、現在、日本の識字率は99パーセントであるそうです。つまり100パーセントではありません。
 これは、100人にひとりは日本の文字を読んだり書いたり出来ない人がいるということです。様々な理由で学校に通うことの出来なかった人もあったと思いますが、少しショッキングな数字です。
 さて、遠く親鸞聖人の時代では読み書きの出来る人はあまり多くはありませんでした。
 鎌倉時代は主に貴族や武家の子どもたちが教育の対象でした。
 一方、庶民の教育機会は限られていて、幼少期を稚児として寺院で過ごした一部の人に限られていたそうです。
 親鸞聖人が多くの人々にお念仏の救いを本格的に説かれる御縁に恵まれたのは、越後での流罪が赦免になって後に関東の常陸にお住まいになられた頃からでしょう。
 当地の人々は「京都から偉いお坊様が来られたそうだ。念仏しちゃならん、ということで流罪にまでなったそうだ」と噂していたのではないでしょうか。
 親鸞聖人は「深遠なる仏教の教説を伝授して差し上げましょう」というご様子ではなく、人々に丁寧にお念仏の教えを説かれました。時には文字の意味もお説きになられたと思いますので、請われれば文字の読み書きも教授されたかもわかりません。
 後に門弟になった中には武士や神官といった人もありましたが大半は農民でしたから、文字の読み書きには疎い人が多かったと思います。
 しかし、人々の大きな喜びは文字の読み書きができなくてもお念仏ひとつでお浄土に往生出来ることだったに違いありません。阿弥陀さまの救いには誰でも等しく、そして何の隔てもないことを聖人から教えられたのでした。
 親鸞聖人の「辺地の群類を化せん」との思いは多くの人々のお念仏の響きとなって実を結んでいったのです。

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