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ゆっくり味わう

 世の中の端々までスピード化が進み、止まることはありません。首都圏では高速道路網が日々拡充されて、以前より格段に早く移動できるようになりました。便利ですが慌ただしさも加速しているように感じます
 また、私たちの日々の中に浸透しているインターネットやスマートフォンもスピード化の競争です。通信速度は徒歩での移動からスポーツカーで高速道路を疾走するようになり、情報伝達量は軽トラックから大型トレーラーになったほどの進化です。
 その昔「おおきいことはいいことだ」と言われていましたが、今は「速いことがいいことだ」になっています。
 さて、親鸞聖人は『教行信証』をはじめ多くの著述を残されました。関東在住から京都にお帰りになられたあとにその大半を著されたといわれています。それと同時に多くの聖教を書写されています。経典など印刷されたものがなかったわけではありませんでしたが、文字を読める人が限られていたため大量に印刷する必要がなかった、ともいわれています。
 書写には一定の決まり事がありました。正・副二部を作成すること、日時と執筆者を巻末に記すことなどです。
 聖人が書写されたものは門弟に下附され、またそれを次の時代の人が書き写すということで、その聖教が大切に今日まで残されることになったのです。
 親鸞聖人が法然聖人のお側で学ばれているときに『選択本願念仏集』の書写を許されました。『教行信証』の後序にそのよろこびが記されています。
 そのよろこびが、その後、長きにわたる苦難の生涯の中でも、親鸞聖人があまたの聖教をゆっくり、じっくり、一文字づつ書き写しながら深く味わい、筆を進められる礎となったのです。
 仏法を味わうには時間をかけなければ本当の味わいにならないことを示唆されていることなのです。

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