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娑婆世界の蛮行

 人道的とは何でしょう。辞書には「人道主義の立場にかなったさま。どんな人間をも人間として尊重する情味のある態度」とあります。対して「非人道的」ということばもあります。「非人道的とは、人間が行うもしくは受ける行為とは思えない酷いありさまを指す形容詞」と示されています。 今、世界中の関心を集めているのはロシアがウクライナに対して行っている軍事侵略行為です。何らかの理由があるにせよ、武力で多くの人々の生命や財産を脅かすことに正義は存在しないと考えます。
 さて、この戦争状況の人道的とは具体的にはどういうことでしょう。武器を持たない市民や負傷した兵士などには攻撃しない、という戦時における紳士協定と理解することができます。第二次世界大戦時の日本でも負傷した人を運ぶ赤十字を付けた船には攻撃を行わない、という決まりがあったそうです。
 以前、その船で従軍したご門徒さんの話しを伺ったことがありますが、実際は赤十字の標があっても攻撃を受けて夜陰に紛れて行動し、いつも死の恐怖がありました、と語っておられました。非日常の状況は人として本来の感情を持って挑むことが許されないのが戦争なのです。ですから、「人道的」が尊重されるのであれば、そもそも戦争行為は行えないことになります。
 「仏説無量寿経」には「兵戈無用(ひょうがむよう)」とあります。武力や武器も必要無し、という意味の言葉です。「仏が歩み行かれるところは、国も町も村も、その教えに導かれないところはない。そのため世の中は平和に治まり、太陽も月も明るく輝き、風もほどよく吹き、雨もよいときに降り、災害や疫病なども起こらず、国は豊かになり、民衆は平穏に暮らし、武器をとって争うこともなくなる。人々は徳を尊び、思いやりの心を持ち、あつく礼儀を重んじ、互いに譲り合うのである」と示されています。
 親鸞聖人の残された「煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界は、よろずのこと、みなもって、そらごとたわごと、まことあることなきに、ただ念仏のみぞまことにておわします」のお言葉が響きます。
 娑婆世界の蛮行には全くまことはありません。

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