至徳の風

先日、海洋冒険家の白石康次郎さんの特集番組を見る機会がありました。白石さんはヨットで単独世界一周を5回もされた方です。門外漢の私でもその偉業は理解することができます。
長らくの疑問として、ヨットでは進行方向から吹く風、すなわち逆風だったら前に進めないのではないか、と思っていました。
しかし、そこがヨットの醍醐味なのだそうですが、角度をつけてジグザグのように逆風の進行方向に進むことができるのだそうです。これは、飛行機が空を飛ぶ原理の「揚力」と「推力」の関係と同じで、帆が翼の役目を果たします。洋上を吹き渡る風を読むことが何より大切なことだということがわかりました。
さて、私たちの日常でも様々な風が吹いています。
禅の世界に「八風」すなわち八種類の自らを乱す風があると説かれています。
利 自己の利欲にとわられて自分だけはと願う心
誉 名聞名誉を望み、誉められたいと願う心
称 人々から称賛されたいと願う心
楽 享楽をよろこび、楽をしたいと願う心
これらを「四順」といい、このような風を願うのです。そして、
衰 気力や体力の衰え、人生の衰えた姿
毀 他人から批判され、けなされる姿
譏 他人からそしられる姿
苦 人生の苦難、苦境にさらされる姿
これらを「四違」といい、このような風が吹かないで欲しいと願ってしまう、というものです。
すべて、私の心の模様を表していますが、これらが複雑にからみ、一定方向からの風でないことも煩悩を
抱えるわが身の姿ともいえるでしょう。
親鸞聖人は『教行信証』行文類に「至徳の風」とお示しくださいました。
「至徳の風」とは阿弥陀仏の本願のはたらきを、穏やかに吹く風にたとえた言葉です。この風は、衆生の煩悩や苦しみを転じて、救いの世界へと導く力を持つとされています。
至徳の風静かに 衆禍の波転ず
(功徳のきわまりである念仏は静かな風のようであり、絶え間ない波のごとく起こる無数の困難な出来事を転じていくのである)
お念仏という順風が満帆であることをよろこばしていただきましょう。