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蓮如上人の御生涯18
「嫁おどしの鬼の面」

 吉崎時代の蓮如上人の伝道に、北陸地方の人たちがいかに傾倒していったかを示す、こんな話が伝えられているよ。
 吉崎近くの村に住む与惣治(よそじ)は蓮如上人に帰依していて、妻の清(きよ)とともに、毎夜吉崎御坊に上人の話を聞きに行っていたんだって。でも与惣治の母は、それが気に入らず、吉崎参りをやめさせたいと思っていたんだ。
 ある夜、与惣治は他に用事があり、妻の清だけがひとり吉崎に参詣したよ。母はこれはチャンスと、村の八幡宮にある鬼女の面をかぶり、体に白い着物をまとい、村はずれの竹藪にかくれて嫁の帰りを待ったんだ。
 そんなこととは知らず、家路を急ぐ清。村まで来ると、竹藪の中から突然「待て!」という声がして、振り向くとすさまじい形相の鬼が立っている。清は驚き、立ちすくんでしまうんだ。
 鬼にばけた母は清に襲いかかろうとしたけれど、着物がひっかかって動けない。もたついている間に、清は家へと逃げ帰ったよ。
 あとに残された母は、失敗したと思い鬼の面をとろうとしたよ。でも鬼の面は、はがそうとしても顔にくっついたまま、どうしてもとれないんだ。これはどうしたことかと力なくその場にくずれおちたよ。
 清は家に帰ったけれど、母の姿が見えない。やがて帰宅した与惣治とともに探しに出てみると、竹藪のそばに鬼の面をつけた老母をみつけるよ。事情を聞いた与惣治は母の手をとり、「蓮如さまは、たとえどのような罪深い人でも、懺悔して阿弥陀様におすがりし、念仏すれば必ず助けてくださると申されています。阿弥陀様を信じ念仏いたしましょう」と、手をとりあって「南無阿弥陀仏」ととなえると、不思議なことに鬼の面は母の顔からするりと落ちたんだ。
 3人は蓮如上人のもとをたずね、事の顛末を語ったよ。母はすっかり心を入れ替えて、親子ともどものお寺参りを喜んだというお話だよ。
 この話は、「嫁おどしの鬼の面」や「肉付きの面」として語り継がれ、北陸だけでなく各地で同様の伝承が残っているよ。お面が顔にはりついちゃうなんて恐ろしい話だけど、考えてみると鬼はお面なんかじゃなく僕たちの心そのものだよね。鬼の心そのままに救われていくみ教えの尊さを伝えてくれるお話なんだよ。

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